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静岡地方裁判所沼津支部 昭和44年(わ)389号 判決

主文

被告人を懲役三年に処する。

但し、この裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。

押収してあるくり小刀一本(昭和四四年押第一二二号の一)、およびくり小刀の鞘一本(同号の二)を没収する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、静岡県富士宮市元城町二〇番一一号所在の安宿「富士本旅館」こと渡辺喜代子方に宿泊してパチンコで稼いで生活を立てていたものであるが、昭和四四年九月二〇日夕刻、同宿人の後藤周一(当時三一才)から、同旅館を営む右渡辺の家族部屋でテレビを見ていたことを詰られたり、扇風機を持つてくるように言いつけられたりなどしたことで、右後藤と言い争いとなり、以前同人から足蹴にされたことなどもあつて同人に対し畏怖の念を抱いていたため、一旦同旅館を出て行こうと考えたものの、同日午後一〇時一〇分ころ、一度同人にあやまつてみようという気を起し、同人の姿を見かけて同旅館帳場に入つたところ、立ち上つた同人からいきなり手拳で二回くらい強く殴打され、同人が立ち向つてきたので、後退りして同帳場南隣りの八畳間に入り、同人から押されて背中を同八畳間西側の障子にぶつつけた際、かねて同障子の鴨居の上にくり小刀(昭和四四年押第一二二号の一および二)を隠くしてあつたことを思い出して、とつさに右くり小刀を取り出し、同人の理由のない暴行に憤慨して同人を死に至らしめるかも知れないがやむをえないとして、自己の身体を防衛するためその必要な程度を超え、同くり小刀を右手に持つて、右八畳間において、殴りかかつてきた同人の左胸部を突き刺し、よつて同人に心臓右心室大動脈貫通の刺創を負わせ、同日午後一〇時二五分ころ、その場で右刺創に基づく心〓タンポナーゼのため同人を死亡させて殺害したものである。

(証拠の標目)(省略)

(法令の適用)

法律によれば、被告人の判示所為は刑法一九九条に該当するので、所定刑のうち有期懲役刑を選択し、その刑期の範囲内において、被告人を懲役三年に処し、諸般の情状を考慮して、同法二五条一項によりこの裁判確定日から五年間右刑の執行を猶予し、押収してあるくり小刀一本(昭和四四年押第一二二号の一)は判示殺人の用に供した物で、くり小刀の鞘一本(同号の二)は右くり小刀の付属品で、同小刀とは一体をなすものであり、これらは被告人以外の者に属しないから、同法一九条一項二号前段、二項によりこれを没収することとし、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文によりこれを被告人に負担させることとする。

よつて、主文のとおり判決する。

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